~幸福について 15~
◇幸福について、小説家はどのように考えているのだろうか?
【幸せを意識し始める】
「十二? ふーん、それじゃそろそろ大人だ」
男は言って、さよの雨に濡れて着物が肌にはりついている胸の辺りをじろじろと見た。いやらしいひとと、さよは思った。だが、男にそういう目でみられるのは悪い気持ちはしなかった。身体は小さいけれど、少しづつふくらんできている自分の胸を思った。
「名前は?」
「さよと言います」
・・・・・・、急にひょうきんな口調で言った。
「さよでござんすか」
面白くない駄洒落に・・・・・・・
藤沢周平著「日暮れ竹河岸」(人の世の光と翳をえがく19編)の1編:「大はし夕立少女」より 文春文庫