~小説の書き出し・・・その6:やさしい関係~
文章を書く際に、まず最初に悩むのは、書出しの言葉ではないだろうか。
読み手の心をつかむためにも書き出しは重要だと思う。
そこで、私がいままで読んだ本の中で、印象に残った本の書き出しを紹介。
《やさしい関係》
「ごめんなさい」
と、女が男に謝った。新幹線のこだま号がゆっくりと東京駅から滑り出したときのことである。
人間の聴覚とは、思いのほか鋭いものだ。と言うより長年耳になじんだ日本語のせいかもしれない。外国語では、こうはいかなかっただろう。
葉山幹雄は女の声を聞いて、
―おや―
と、かすかな違和感を覚えた。違和感の理由はすぐには飲み込めなかった。・・・・・・・
やさしい関係 阿刀田 高 著
文春文庫 文藝春秋